2016年アメリカ大統領選挙で当選したドナルド・トランプ。その勝利は、ある女性がスタッフに加わったことが大きな転機となったという。彼女の名は、ケリーアン・コンウェイ。世論調査の専門家としての知識を買われ、トランプ陣営の選挙対策本部長に就任した。
トランプは当初、過激な発言を繰り返し女性票の獲得に苦戦していた。そんなトランプに彼女は、女性蔑視の態度を改めさせ女性にウケる態度や話し方を徹底的にレクチャー。それが大逆転勝利につながったと言われている。
有名議員が実践する一流の魅せ方
人は魅せ方が100%、偉大な政治家もそうだが一流の人たちは、例外なく一流の魅せ方を実践している。絶大な支持率を誇った元内閣総理大臣・小泉純一郎。彼は大雪の中でこんな選挙演説をしている。
「大雪の中、こんなに大勢、本当にありがとうございます。みんな真っ白い傘、色々な色付きの傘も雪で真っ白になっちゃった。こんな雪の中で街頭演説するのは初めてです。」
1時間以上、降りしきる雪と強風の中で立ちながらずっと聞いている聴衆。そんな彼らと気持ちを共有する言葉だ。実は、小泉氏のスピーチは必ず聞き手の状況を形容する言葉から始まる。ほんの短い言葉で聴衆との心理的距離が縮まることを小泉純一郎は知っているのだ。
さらに小泉氏は、好きなアーティストはX JAPANだと公言している。これも若年層を意識した魅せ方。総理という堅いイメージを和らげ親しみを持ってもらうための戦略だという。
その息子である小泉進次郎にも魅せ方の秘密がある。演説や会見などでは、低い声でゆっくりと話し説得力を持たせる。逆に親しみを持ってもらいたい時は、声を高くし早いテンポでしゃべる。
実際、アメリカのイリノイ大学の行った実験で、人間は声のトーンによって支配力や影響力が大きく変わると報告されており、心理学的にも極めて有効なテクニックなのだ。
進次郎氏の魅せ方はそれだけではない。初対面の人とのトークでは、最初に相手の出身地を聞き、それをきっかけにトークを盛り上げる。実は、47都道府県の全てについて自分なりのトークテーマを準備しているのだ。
握手の名手、蓮舫。握手が勝負のツールとして大きな効果をもたらすことを彼女は知っている。一般的には、互の手を握って上下に振るのが握手だと思われているが、それだけでは相手は自分のファンにはなってくれない。蓮舫氏の握手には、出会った人を一瞬で魅了する鉄則が隠されている。
それは、手を握った後もう一度相手の目を見る。握手をした後、そのまま目をそらすと冷たい人だったという印象を相手に残してしまう。蓮舫氏はこの鉄則を忠実に守り、自身のファンを増やし続けているのだ。
選挙とは民主的な殺し合い。日頃のファッションによるイメージ戦略が、勝敗を決めることも少なくない。ファッションにおいて小池百合子ほど、魅せ方のうまい議員はいないという。
26年前の小池氏初登院の日、そのファッションはなんとサファリルック。新人の頃の小池氏は、明るく華やかな服装が多かった。2003年、環境大臣に就任すると今度は黒などシックな服が多くなっている。そして2016年、都知事選立候補後は、明るい色合いの服が目立つ。実はこれ、対人認知において極めて効果的な戦略なのだ。
人は表情や声などの印象と服など身に付けるものの色によって、どのような人物かを直感的に判断する。新人の頃の小池氏は、自由や躍動感を表現しており、大臣になってからは親しみやすさを排除、パワーや権威を表現している。都知事選立候補後は、強く権威ある女性のイメージを捨て、明るい色の服で信頼、暖かさへとシフト。小池氏はこのマトリックスを巧みに使ってイメージを操作していたのだ。
選挙戦略家によれば、細野豪志の目の眉の使い方は完璧だという。普通、街頭で演説する時は、集まっている人を上から見下ろす形になる。この時、有権者1人1人と目を合わすことはできない。そんな時、細野氏は目を大きく見開き、同時に眉を引き上げる。これは「来てくれたのですね、ありがとう」という感動を示す表情。実はこれ、アイドルグループがコンサートでも実践しているテクニック。好感度を高めるのに非常に効果的なのだ。
普通の主婦をたった6週間で議員に当選させた方法
ある日、選挙戦略家の下を1人の女性が訪ねてきた。
「あの…相談があるんですが」
彼女は辻井さちこ49歳、2人の中学生の子供がいた。
「実は、会社をリストラされてしまって…議員秘書になりたいので仕事を紹介してくれませんか?」
「議員秘書ですか?」
「家のローンも学費もまだまだかかります。夫の収入だけでは不安で、私が働かないわけにはいかなくて…」
議員秘書になりたいという相談だった。だが元議員秘書でもある選挙戦略家は…
(議員秘書は機敏な判断と応用力が求められる仕事。お世辞にもこの人からは機敏な印象は受けない…議員秘書には向いてないなぁ)
「ちなみにどうしてリストラされたんですか?」
「私、なぜか人に相談されることが多くて、同僚や後輩の面倒をみているうちに自分の仕事が後回しになっていたんです」
(自分のことより他人を優先してしまう人かぁ、そうだ!せっかくだったら…)
「ねぇ、あなた議員にならない?」
「えっ(;゚Д゚)!」
「地方議員になって街のお手伝いをするの、絶対向いていると思う」
これはごく普通の主婦を6週間で議員にさせた本当の物語。
投票まで6週間――――
「あなたは市民に選ばれる女性にならなくてはいけません。そのために服装、持ち物、話し方全部変えましょう」
「全部ですか(;゚Д゚)!」
「そうよ、人は魅せ方が100%だから!まずスペックの棚卸しをしましょう。好感度アップへの道は、まず自分を客観視するところから始まるのよ」
まず、選挙戦略家は、身長、体重、学歴などを書き出させた。自分を客観視させ議員になるために足りないものを確認したのだ。
「どれどれぇ、体重49キロ…本当かしら?じゃぁ体重計に乗ってもらいましょうか」
「す、すいません。本当は55キロなんです…」
「自分にウソをついちゃダメ!どう見られたいかじゃないの!どう魅せるかよ!次にあなたの服の着こなしだけど…それじゃあ、戦う前に負けているわ」
「どういうことですか?」
選挙戦略家が指摘したのは、服の着こなし。辻井が着ていたのは、体型を隠すために選んでしまいがちなゆったりとした服。実はここに落とし穴が潜んでいた。
「太っている人は仕事が出来そうに見えないでしょう?だけど体型を隠しても人はすぐ見抜いてしまうわ!」
「じゃあ、どうすれば?」
「あなたの場合はウエストを作れば解決するわ」
「ウエスト?」
「こうするだけよ!みぞおちあたりのボタンを留めるだけでウエストが生まれて印象がガラっと変わるのよ。どう見られたいかじゃなくて、どう魅せるかよ!じゃあ、次はあなたが選挙戦を戦う服を買いに行きましょう」
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「新人だし白をベースにしましょう。さらにあなたの場合、若草色を取り込めばよりフレッシュさをアピールできるはずよ」
「これなんかどうですか?」
「確かにいいわね。すみません、この服5着ありますか?」
「5着ってどういうことですか?」
「選挙が終わるまであなたは毎日同じ服を着るのよ」
選挙では有権者に覚えてもらうことが何よりも大切。毎日同じ服を着てイメージを統一する作戦だった。後日2人はポスター撮影に向けて美容室へ。
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投票まで5週間――――
「せっかく綺麗になったんだから、ここで撮影しましょう!時間がもったいないわ」
「本当にここで撮るんですか?」
なんと選挙戦略家は、美容室でポスター撮影を行った。選挙まで日がなく、1分1秒でもムダにしないためだ。
「じゃあ、撮ります」
「ちょっと待って、あなたの場合、歯は8本見せないと」
「どうしてですか?」
「歯の本数で与える印象が全く違うのよ」
口元からのぞく歯は、0本が「リーダーシップ」、4本が「信頼」、8本が「親しみやすさ」を表しているという。実際、党首のポスターはリーダーとしての威厳を示すために口を結んでいるものが多い。逆に新人は、親しみを持ってもらえるよう上下の歯をしっかりと見せることが大切。
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投票まで3週間――――
「明日からはいよいよ街頭演説よ!演説の極意は1分で3票取ること」
「どういうことですか?」
「駅前は急いでいる人が多いでしょ、話を聞いてもらうには20秒が限界なの。それから演説の内容は決して大多数に向けて作ってはダメ。人は自分が関心があること以外、話は聞いてくれないの。例えば、この地域はお年寄りが多いからおじいちゃんに向けて…」
「おじいちゃんこんにちは!お散歩中ですか?とっても元気ですね!でも急に介護が必要になったら…都会に出たお子さんは明日から面倒みてくれますか?そんな心配がなくなるよう、必ず介護施設を充実させます!辻井さちこです!(20秒)」
「こんな感じよ。人は魅せ方が100%よ!」
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投票まであと2週間――――
「辻井さちこです!よろしくお願いします」
「辻井さん、声の高さが違うわ!説得力を持たせる時は「ファ」の高さで話さないと」
「はい」
有権者がかぶらないように演説でまわる地域はバラバラに設定する必要がある。商店街で握手をして回る辻井。
「辻井さん、疲れて握手がおろそかになっているわよ。ちゃんと相手の目を見て!」
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投票当日――――
そして運命の投票日。
見事に当選を決めた辻井さりこ。人は魅せ次第で一流にも二流にもなる。うまくいかないと思っているあなた。自分の魅せ方を変えてみてはいかがだろうか。