伝統の裏側には、私たちの思い込みとは違う意外な歴史や思惑が隠されている。そんな受け継がれる伝統の真実を暴く!?
伝統の正体とは
今日はあこがれの先輩と京都でデート。でもひとつ心配事が…。
「おまたせ、待った?」
「僕も今来たところ」
彼女の名前は伝 統子(でんとうこ)。名前のとおり伝統にとてもうるさいのです。
平安神宮に隠された京都の意地
「うわぁ、おっきい鳥居。さすがは平安神宮、京都の伝統がひしひしと伝わってきますね」
「この神社、意外と歴史は浅いの」
「平安神宮って平安時代からあるんじゃないんですか?」
「それ思い込み!この神社ができたのは明治になってから。でもここは千年の歴史を誇る京都人の意地が隠されているの」
明治の始め突然、都が東京に移されることになった京都。宮中御用達の老舗も次々に東京に拠点を移し人口は激減、経済は落ち込んでいた。
「このままやったら京都も奈良みたいになってしまう」
「それやったら大きな神宮を作ってこの京都がほんまの都やっちゅうのを見せつけたりまひょ!」
京都府は、京都を元気にしようと大きなイベントを企画。この時、そのシンボルとして平安神宮を作ることになったのだ。しかし…
「大きな神宮を作るのは莫大なお金がいりますな」
「それですわぁ、けど明治政府が京都に金を出すやろか」
「仮に政府からお金出してもうても、後でなに言われるかわかりまへん。それやったら寄付募りまひょ」
なんと彼らは、国を頼らず建築費をすべて寄付で捻出。歴史は浅くても平安神宮には、京都人の意地と底力が隠されている。
正座に隠された恐ろしい仕掛け
「次、どこ行くの?」
「はい、京都ならではの甘い物なんてどうですか?」
「いいわねぇ、行こ」
*
「ここ、ここ。創業480年なんです」
「創業480年!伝統ありそうね」
「お待たせいたしました」
「うわー美味しそう」
「ところでなんで正座してるの?」
「( ´・д・)エッ、こういう場所では、あぐらより正座のほうがいいかなって。だって日本の古くからの伝統でしょ?」
「それも思い込み!昔の日本人は正座なんてしなかったのよ!」
古来、正座は神や仏を拝む時など神聖な儀式の時だけ行わていた特別な作法だった。平安時代の装束を見てみても下半身部分は大きくゆったりと作られている。これは正座ではなく、あぐらを組むことを前提に作られたもの。日常の礼儀としてはあぐらで座ることが正式なものだったのだ。
「元々あぐらが伝統的な座り方だったのに、なぜ正座になったのか?そこには徳川幕府の威厳が隠されているのよ」
「と、徳川幕府?」
参勤交代が始まった江戸時代初期、大名たちは江戸城内での作法として正座をすることを強いられた。将軍と対面する時、彼らに正座させることで将軍を神や仏のように神格化し徳川への忠誠心を植え付けたのだ。これが礼儀として各大名の領土へ拡散され、やがて庶民へと普及したのだった。
万歳に隠された明治政府の思惑
「それにしてもここいいお店ねぇ、センスいいじゃない」
「やったぁ、バンザーイ!」
「ちょっと待って、おめでたい時とか嬉しい時になぜ万歳するか知ってる?」
「( ´・д・)エッ、これって日本の古くからの伝統じゃないですか?」
「それも思い込み!万歳は海外の習慣をマネたものなの」
「Σ(゚Д゚;エーッ!」
本来、日本には正式な儀式で声を揃えて歓喜する言葉はなかった。しかし明治22年、大日本帝国憲法発布に合わせて明治天皇が観兵式に臨むことに。すると…
「敬礼だけではどうも物足りない」
「外国のように歓喜の声を挙げてみてはどうでしょうか?」
「歓喜の声といいますと?」
「例えば、フランスでは『ヴィヴ!ラ!フランス!』、イギリスでは『セーヴ!ザ!キング!』と叫ぶそうです」
「ならば万歳!万歳!万々歳!というのはどうだね?」
「それいいですね」
万歳とは古くから長寿や末永い繁栄を意味する言葉。明治天皇に向かって人々は始めて万歳を三唱することになったのだが…。その大きな声に馬が驚き立ち止まってしまった。そのため二度目の万歳は小声に、最後の万々歳は言えずに終わってしまう。以後、万々歳は省略され万歳だけが使われるようになったのだ。
あぶらとろ紙に隠された意外なルーツ
「日本人は古い物を大切にするけど、新しい物をうまく取り入れて伝統にするんですね」
「そう、例えばこのあぶらとり紙もその一つ。この紙の発祥は、実は意外なところなの」
「意外なところ?」
古くから舞妓や芸妓が活躍する京都。彼女たちの必需品の1つがあぶらとり紙、京都の伝統的な土産物と思い込んでいる人も多いが、そこには意外なルーツが…
「よーい、スタート!カット!おい、誰か顔のテカリなんとかしてくれ!照明が反射して台無しだ!」
大正から昭和にかけて多くの映画撮影が行われてきた京都。しかし、フィルムの感度が悪い当時の撮影現場では、役者が大量のライトを浴びる。そのため、どうしても顔に脂が浮いてしまった。そこで…
「役者の顔のテカリなんとかなりませんかね?」
「テカリですかぁ、わかりました。なんとかしまひょ!」
要請を受けたのは、化粧品の製造販売をしていた國枝茂夫。様々な紙で試行錯誤を繰り返した。すると…「これや!脂が取れる!」それは襖職人が使う和紙、金を叩いて伸ばす時にはさむ金箔の裏打ち紙だった。
この紙は、顔に浮いた脂をよく吸い取ることに加え化粧が崩れないことから撮影所や舞台で重宝されていく。こうしてあぶらとり紙を手帳型に加工して販売、映画関係者はもちろん舞妓や芸妓の間でも評判となったのだ。
「京都には色んな伝統があるんですね」
「そう、伝統の正体を知ることで日本人の気質が見えてくるの、じゃ、また」
「えっ、ちょちょっと統子さん!?」
伝統には様々な人たちの様々な思惑が隠されている…