日本でも人気のトム・クルーズ主演の「ミッション・インポッシブル」。その最新作・フォールアウトが今年8月3日に公開される。そのミッション・インポッシブルの第4作ゴースト・プロトコル。この中にとんでもないアイテムが登場する。装着し相手を見ることで、その相手の詳細情報が瞬時に端末に送られるというコンタクトレンズ。映画の中の架空のアイテム…と思いきや、実は現実世界でもこれに近い物が開発されようとしている。
アメリカ国防総省は、コンタクトレンズから直接映像が見ることができる仮想現実コンタクトレンズの開発に乗り出したという。映画自体はフィクションであってもそこには現実の世界が盛り込まれている。
アメリカ映画の裏側
2017年日本で公開された「ワンダーウーマン」。全世界興行収入850億円を突破した大ヒット作。ギリシャ神話に登場するアマゾネスの姫ダイアナが、第一次世界大戦真っ只中のイギリスへ上陸し巨悪に立ち向かう。その中で女性秘書を奴隷と揶揄するシーンがある。さらに注目すべきは、彼女が両腕にはめている金の腕輪、実はこれギリシャ神話の中では奴隷の象徴とされている。この映画の設定になっている時代は、女性に参政権はなくその権利を求める戦いが続いていた。映画にはそんな現実も投影されているのだ。
このようにアメリカ映画には、日本人にはわからないその時代の世相や風刺が随所に散りばめられている。
映画に隠されたアメリカの憂鬱
私、アメリカに憧れて将来アメリカに住みたい憧れい子(あこがれいこ)。夢が叶ってアメリカに留学することになったんです。
「れい子」
「あぁ、加子先輩」
「いよいよ来月からアメリカね」
「そうなんです」
彼女は先輩の亜米利加子(あめりかこ)さん、アメリカの文化や映画にとっても詳しいんです。
*
「かわいい~さすが加子先輩、いいお店知ってますねぇ」
「ところでどうしてアメリカに行こうと思ったの?」
「そんなのアメリカンドリームをつかむために決まってるじゃないですか~。だからまずは、乗った飛行機の若いパイロットを逆ナンして玉の輿狙っちゃおうかな~」
「それアメリカ人からすれば大変な勘違い」
「どういうことですか?」
「この映画を見なさい」
「フライト?」
「今アメリカでは、もはやパイロットは憧れの職業ではないのよ」
「工工工エエエエエエェェェェェェ(゚Д゚)ェェェェェェエエエエエエ工工工」
2012年に公開されたフライト。日本でもヒットしアカデミー賞の脚本賞と主演男優賞にノミネートされた。突然制御不能となり、急降下を始めた飛行機。絶体絶命の中、機長は飛行機を上下反転させるなどあらゆる手段を駆使する。そして…無事着陸、機長のとっさの機転で多くの命が助かった。国民的英雄となった機長。ところがある日、弁護士からこう告げられる。
「報告書によるとあなたからアルコールが検出されています。濃度0.24%、世界一飲酒運転にあまい昔のこの国でも0.08%以上なら即座に刑務所行きです」
フライト中に飲酒していたというのだ。実は彼、重度のアルコール依存症だったのだが…これは映画だけの話ではない。アメリカでは実際にパイロットのアルコール依存症が大きな問題になっている。
2002年アメリカ・ウエスト航空の機長と副操縦士から大量のアルコールが検出され逮捕。さらに2009年にはユナイテッド航空の副操縦士が酒酔い操縦で逮捕されている。
「せっかくパイロットになって、お給料もいいのにもったいない」
「それも大きな間違い。アメリカのパイロットの賃金は今、大変なことになっているのよ」
アメリカの航空会社の多くは、9割以上の席を埋めないと赤字に。どこも採算ギリギリでフライトしている。ある調査によると新人パイロットの年収はおよそ200万円、最低賃金労働者と同レベルだという。そのため最近では、パイロットの資質の低下が問題視されている。乗客の命を守ることが当たり前なのに、それが当たり前ではなくなっているのだ。アメリカ人にとって映画「フライト」はシリアスな社会派映画なのだ。
「加子先輩、パイロットはあきらめて他探します!」
「もちろん、ちゃんとしたパイロットもいるんだけどね」
「あっ…外国の人…ちょっと練習してきます」
「ちょっと何をするの?」
「エクスキューズミー?、プリーズ メイク ラブ ウィズ ミー!」
「What?」
「ちょっと!あんた何やってんの!ったく何考えてんの!メイクラブってエッチするって意味なのよ!」
「(;゚Д゚)!マジで!でもアメリカって自由の国でしょ、だから私も恋愛を自由に楽しむんです!」
「その考え危険よ!この映画を見なさい」
「ジュノ?」
「アメリカではね、あなたみたいな女の子がいっぱい苦しんでいるのよ」
2007年に公開された映画「ジュノ」。パンクとホラーが好きな女子校生が、親友との興味本位にセックスをして妊娠してしまう。中絶を考えていたジュノに同級生がこんなことを…
「赤ちゃんもう心臓動いてる。痛みを感じるし、ツメも生えてるのよ」
ジュノはこの言葉を聞かされ中絶を思い止まる。日本ではあまり知られていない映画だが、アメリカでは興行収入120億円を突破している。
「へぇー、でもなんでアメリカではヒットしたんですか?」
「この映画もアメリカのリアルな社会問題がもとになっているのよ」
実はアメリカでは、年間100万人の10代女性が妊娠しているという。アメリカに多いカトリック教会は、婚前交渉を禁止。そのため避妊の仕方を教えることはない。それがかえって若者の妊娠に繋がっているのだ。
一方、中絶は州によって今も法律で禁止されているため、10代で未婚の女性が妊娠しても中絶できず、仕事もないため貧困にあえぐ生活に陥ってしまうのだ。親から子へ、何代も繰り返される負のサイクルが生まれている。
「プー(クラクション)、ヘイ!カコー」
「ハァイ、ジョージ、ハウアーユー」
「加子先輩ずるい~こんな知り合いいるなんて。しかもこれアメ車でしょ?アメリカって世界一の車大国なのよね~憧れるぅ」
「あんたホントに何も知らないのね、この映画を見て勉強しなさい」
「グラントリノ?」
クリント・イーストウッドが主演を務め、日本でも公開された「グラン・トリノ
」。舞台は自動車の街デトロイト。自動車工だった主人公は、妻に先立たれ日々短調な生活を送っていた。心の拠り所は愛車のグラントリノ。そんなある日、街を荒らすギャングを追い払ったことをきっかけにアジア系移民の少年と知り合う。
やがて2人の間に芽生えた友情は、それぞれの人生を大きく変えていく。そんな映画の中で主人公は自分の息子に関してこんなことを口にする。
「俺の長男もセールスマンだ。儲けてる口先三寸でね。俺は50年フォードで働き、奴は日本車を売ってる」
このセリフには大きな意味が隠されている。1973年デトロイトの自動車産業は大打撃を受けた。オイルショックで燃費のいい日本車が売れ始め、アメリカの車が売れなくなる。それに伴いアメリカの自動車産業は衰退。デトロイトで働いていた人々は職を失い多くの人が街から出て行ってしまった。
それでもこの街に住み続ける主人公。大切にしている愛車は古き良き時代の象徴だったのだ。
「アメリカって色んな人種の人がいるんですね」
「まぁ、それがアメリカだからね」
「でもオバマさんが黒人初の大統領になって人種問題も変わりましたよね」
「それも大きな勘違い!この有名な映画には人種問題へのメッセージが込められているの」
「X-MENが人種問題?」
超能力を持って生まれたミュータントが主人公のアクション映画「X-MEN」。このミュータントたちは、いわば人種的マイノリティ。つまり、アメリカに存在する人種差別の苦しみとその解放運動をモチーフにしているのだ。さらに映画の終盤にはこんなセリフも…
「ミュータントの同志たちよ、もう隠れなくていい、苦しみは終わりだ。君たちは恥辱と恐怖の中で長いこと生きてきた。姿を現し私と組むのだ!同志として力を合わせて戦おう」
これはサンフランシスコ市議会議員だったハーヴェイ・ミルクの演説を引用したもの。彼は1978年サンフランシスコをゲイの開放区にし、自身がゲイであることを演説でカミングアウトした。実はX-MENの監督ブライアン・シンガーもバイセクシャルであることを公表している。彼はこの映画を通して黒人や同性愛者ら差別と戦う人たちに希望を与え続けていたのだ。
「なんかアメリカって色々複雑なんですね」
「あんた、何にも知らずに行くつもりだったの?」
「実は英語もほとんどしゃべれないんです~」
「だったらアメリカ留学する前に駅前にでも留学したら」
「(;゚Д゚)!ちょっと先輩待ってくださいよ~」
アメリカ映画で読み解くトランプ大統領誕生のカギ
「ようこそアメリカ映画研究所へ。私は所長の大統領子(だいとうりょうこ)です。当選しないと言われていたトランプがなぜ大統領になれたのか。今日はその秘密を映画で解き明かしましょう」
「それを読み解くのが2015年に公開された『ブルックリン』です」
アカデミー賞で作品賞と主演女優賞にノミネートされるなど、日本でも話題を呼んだ映画「ブルックリン」。1950年代アイルランドからニューヨークのブルックリンに移住してきた若い女性の物語。見ず知らずの土地で新たな人生を踏み出すというもの。
故郷と新天地の間で揺れ動く移民たちの心情を描いている。タイトルになっているブルックリンは、古くからユダヤ系やイタリア系に加え、多くのアイルランド人が移住した場所。この映画では貧しい生活を強いられ、施しを受ける移民たちの姿が描かれている。
夢を抱きアメリカに来た彼ら。しかし、ちゃんとした教育は受けられず肉体労働に従事するのが現実だったのだ。
「そんな中、彼らのために集合住宅を建設し、財を成したのがトランプ大統領の父親。そしてトランプを支持したのが移民たちの子孫だったのです」
トランプが大統領になるために訴えたのが、労働者の貧困からの脱却。彼自身、ホテルやビルを建てる時に雇用したのが、そんな移民労働者たちだった。彼らは少しでも生活が変わることを期待してトランプを支持したのだ。
「またトランプは労働者たちだけではなく、差別的な発言を繰り返すことである人たちの票を集めたのです。その理由を読み解くのがこの映画!」
「今から100年以上前に公開された『國民の創世』」
1915年公開の「國民の創世」。アメリカ初の長編映画で南北戦争時代のアメリカが舞台となっている。だが黒人を演じるのは、肌を黒く塗った白人。しかも、彼らが白人たちを暴力で脅し、そしてそれに対抗する白人至上主義団体KKKを正義として描いている。
実はこの映画の公開当時、KKKは壊滅状態。しかし、映画が大ヒットし全米各地でKKKが復活したのだ。そのKKKが正式に支持表明したのがトランプだった。調べによるとトランプに投票した人の57%が白人。この映画によってKKKが復活しなければトランプの当選はなかったのかもしれない。
「最期のカギが2017年に公開された『ファウンダー』。まさにトランプが大統領に就任した年の映画で、トランプ大統領誕生の秘密を解くカギが隠されていたのです」
時は1950年代のカルフォルニア。そこで評判を呼んでいたのは、マクドナルド兄弟のハンバーガーショップ。行列の絶えない大人気店だった。徹底してムダを排除し、1個15セントでハンバーガーを販売。受け渡しまで30秒という店に客が殺到した。世界初のファストフード店の誕生だった。
そこに現れたレイ・クロックという男が店のチェーン展開を提案。彼はこのチェーン展開を成功させ、最終的にはマクドナルド自体を買い取る。だがそこまで優秀な経営者がなぜ自ら店を立ち上げずマクドナルドを欲しがったのか?
クロックが欲しかったのは店ではなく「マクドナルド」という名前。
「実はマクドナルドという名前は、『マクドナルドじいさん』という童謡があるほどアメリカでは、誰もが親しみを持つ名前だったのです」
大統領にまで上り詰めたトランプも祖父の時代の名前はドランフ、ドイツ系の苗字だった。
「アメリカという国にとって、名前が国民に受け入れられるかどうかは、大きなカギを握ります。トランプは誰よりもその事実を知っていたのです。ではまたお会いしましょう」