Hじゃない「大人の絵本」大人だから心に響く、大人にこそ読んで欲しい本を厳選!将来への不安、現状への不満…生きづらい時代に生きる人々にちょっぴり勇気を与えます。
絵本は決して子供だけのものではない。大人が読んでも新しい発見があったり感動するモノがたくさんある。今回は、大人にこそ読んで欲しい絵本を紹介します。
このあとどうしちゃおう
10万部売れたら大ヒットと言われる出版業界で発売から3日で10万部という驚異の売上を記録した本がある。ヨシタケシンスケの絵本「このあとどうしちゃおう」。
この絵本の主役は、おじいちゃんを亡くした1人の少年。少年はおじいちゃんの部屋で1冊のノートを発見する。そこには自分が死んだ後どうなりたいか、どうして欲しいかが書かれてあった。
幽霊センターへ行き、天国へいくこと。生まれ変わったらなりたいもの(お金持ちに飼われているネコ。末っ子)。こんな神様にいて欲しい(誰にも言えなかったことを聞いてくれる。今までの思い出話を面白がってくれる)。どうやってみんなを見守っていくか(月になって。通りすがりの赤ちゃんになって。りんごになって)。
そこにあったのは死後の世界を楽しみにする姿。少年はふとあることに気づく。
「もしかした逆だったのかもしれない。おじいちゃんは死ぬのがすごく怖かったからノートを書いたのかもしれない。」
そう思った少年は自らノートを作り、天国で空を飛ぶ練習をする。そうするうちに生きているうちにやりたいことに気づいていく。この本は死をどう受け入れるかを想像させることで、どう生きるべきかを伝えているのだ。
りんごかもしれない
5年で36万部を売り上げたヨシタケシンスケのもう1つのベストセラー「りんごかもしれない」。この本は、りんごを見つけた少年が、もしかしたらこれはりんごじゃないかもしれない。そう思い答えを想像していく絵本。
実は何かのたまごかもしれない。本当は他のモノになりたかったのかもしれない。怖いとシワシワに。悲しくなると白くなるのかもしれない。
さまざまな想像を抱かせるりんごと少年は、見るものに先入観や固定観念のむなしさを思わせる。りんご1つでこんなにも楽しくなる。人生をつまらなくしているのは自分。考えることでもっと世界は面白くなることを伝えているのだ。
この絵本が36万部という異例の売り上げを誇っているのは、決して子供のためだけではなく、あらゆる世代に大切なことを気づかせてくれるからなのだ。
おとうさんのちず
会社を興し一代で財を成した剛。しかし、あまりにワンマンな経営スタイルを貫いたため、部下たちの恨みを買い会社を乗っ取られてしまう。
「俺は誰よりも努力してここまで這い上がってきたんだ…」
✽
25年前―。
部屋で1人勉強する剛。そこに父親がやって来て
「剛!野球でも観に行かないか?」
「そんなヒマねーよ!」
「勉強ばっかりしてるとさ、友達できねーぞ」
「うるせぇ!俺はな、あんたみたいなみっともねぇ父親になりたくねぇから努力してんだよ!」
「お前…」
「出てけよ!話したくねぇんだよ」
✽
「誰よりも努力してきたのになんでこんな目に…」
その時、剛の目にとまったのは子供が借りてきた1冊の絵本。
おとうさんのちず
戦争であちこちが火の海になり、建物が崩れ落ちると僕の家族は何もかも失って命からがら逃げ出した。そして遠い遠い東の国までやって来た。夏はとても暑いし、冬はとても寒いところだった。
泥やワラやラクダの糞でできた家の周りには砂埃の立つ平原が広がっていた。僕たちは小さな部屋で、よその夫婦と一緒に暮らすことになった。寝るのは土を固めた床の上。食べるものも足りなかった。
ある日のこと…。おとうさんはパンを買いに市場へ出かけて行った。お父さんは夕方になっても帰らなかった。僕とお母さんは心配した。お腹もぺこぺこになっていた。日が暮れるころ、お父さんがようやく帰ってきた。長い巻紙を抱えたお父さんは、誇らしげに言った。
「ちずを買ったぞ」
「パンは?」
「ちずを買ったんだよ」
僕とお母さんが黙っているとお父さんは言い訳をするように言った。
「あの金じゃ、ほんの小さなパンしか買えない。お腹を騙すことさえできそうになかったよ」
「(´Д`)ハァ…夕御飯は抜きね。ちずは食べられないもの」
僕は怒った。ひどいお父さん許せない!そう思いながら僕はひもじいお腹を抱えて寝床へ入った。同じ部屋の夫婦はわずかながらの夕食を取っていた。僕はうらやましくてたまらない。食べることも舌鼓の音も聞こえないように僕は、頭からすっぽり布団をかぶった。
次の日、お父さんは壁にちずを貼った。ちずは壁一面に広がると黒い部屋に色が溢れた。僕はうっとりした。細かいところに見入ったり、運良く紙が手に入れば描き写したりもした。ちずにある不思議な名前が僕を虜にした。フクオカ・タカオカ・オムスク…魔法の呪文みたいに唱えた。すると狭い部屋にいても心は遠くに飛んでいけるのだった。
僕は灼熱の砂漠に降り立つこともできたし、足の指が砂に潜るのを感じながら浜辺を走ることもできた。雪山に登って頬を切るような冷たい風を感じることもできた。果樹園に潜り込んだ僕は、パパイヤやマンゴーを好きなだけ食べた。おいしい水をごくごく飲んだ後は、やしの木陰で一休みした。
ちずのおかげで僕は、ひもじさも貧しさも忘れ遥か遠くで魔法の時間を過ごしていた。僕はパンを買わなかったお父さんを許した。やっぱりお父さんは、正しかったのだ。
読み終えた剛は父親に電話する。
「もしもし…剛か?これはめずらしい。仕事がんばってるのか?」
「オヤジ…一緒に野球観に行かないか?」
「あぁ、いいぞ。でもお前、野球わかるのか?」
「わからないよ。だから父さん教えてよ」
人生に大切なもの…それは決してお金や名誉だけではないはずだ。
いつもだれかが…
会社のオフィスで上司に怒られるOL
「お前もう8年目だろ?こんなこともできないのか!」
「すいません」
「ただでさえ辛気臭い顔してるんだからさ、せめて仕事くらいちゃんとやてってんだよ!」
「はい…」
給湯室で洗い物をしていると…
「今日のコンパさ、1人足りないんだよね。誰かいない?」
「数合わせでしょ?あの子はひろ子、いないよりマシじゃない?」
「えっ?ひろ子?ダメよ!あの子辛気臭いじゃん」
「アハハ、そだねー」
帰宅したひろ子。
「私って何のために生きてるんだろ…」
ダンボールをみるひろ子。
「お母さんから届いてたんだっけ」
人生に幸せを感じられないあなたへ。
いつもだれかが…
おじいちゃんはよくお話をしてくれる。
ぼうや、わしはなにをしてもうまくいったんだぞ…わしはな毎日広場を通って学校へ行っていた。あの広場の真ん中には大きな天使の像が建っていたが、わしはいつも大急ぎだったし全然見もしなかった。
あの頃は、まだ全然車も多くなかったのに、もうちょっとでバスに轢かれそうになったことがあったっけなぁ。途中には穴ボコがあったり、寂しいところがあったり。だがな、わしはちっとも怖がらなかったぞ。いつも一番勇気があって、とても高い木に登ったり、もの凄い深いところに飛び込んだりしたんだ。
いたずらだって平気でやった。どんなに危ないことをしているのか、あの頃わしは知らなかったからなぁ。だが友達のヨーゼフにはわかっとったんだな。いつも怖そうにビクビクしとったよ。
そしてある時、不意にいなくなっちまった。わしは凄く悲しかった。わしもだんだん大きくなって楽しいことばかりじゃなくなってきた。戦争があって…食べるものがなくなり、わしは様々な仕事に就いて働いたよ。
そのうち、好きな人ができてパパになって。そしてお前のおじいちゃんになったんだよ。色んな事があったけど、まぁ運が良かったな。わしはとても幸せだった。
おじいちゃんは疲れたのか目を閉じた。僕はそっと部屋を出た。外はまだ明るくてあったかい。今日は素敵な日だったなぁ。
「そっか…今こうして生きてるだけでも幸せなのね(ひろ子)」
身の回りにある小さな幸せに気づくことができたら、きっと人生はもっと楽しくなるだろう。
あな
就活なんか地獄だよ。やりたいことなんて無いってのに…(学生)。俺ももうすぐ30か…本当にこのままでいいのかな?サラリーマンで一生終えるのかな(サラリーマン)。変わり映えのない毎日…私、何のために生きてるんだろう(主婦)。
やりたいことが見つからないあなたへ、ぜひ読んでもらいたい絵本がある。
あな
日曜日の朝、なにもすることがなかったので、ひろしはあなを掘り始めた。お母さんが来た。
「なにやってるの?」
「あなを掘ってるのさ」
そうしてあなを掘り続けた。妹のゆきこが来た。
「私にも掘らせて」
「ダメ」
そうしてあなを掘り続けた。隣のしゅうじくんが来た。
「何にするんだい?このあな」
「さぁね」
そうしてあなを掘り続けた。お父さんが来た。
「焦るなよ、焦っちゃだめだ」
「まぁね」
そうしてあなを掘り続けた。手の平のまめが痛い。汗が耳の後ろを流れ落ちる。もっと掘るんだ。もっと深く。その時、大きなイモムシが穴の底から這い出してきた。
「こんにちわ」
イモムシは黙って、また土の中へ帰っていった。ふと肩から力が抜けた。ひろしは掘るのをやめて座り込んだ。穴の中は静かだった。土はいい匂いがした。ひろしは穴の中のシャベルの跡を触ってみた。これは僕のあなだ。
「なにやってるの?(お母さん)」
「あなの中に座ってるのさ」
「お池にしようよ(妹)」
「落とし穴にするのかい(しゅうじ)」
「なかなかいいあなができたね(お父さん)」
「まぁね」
そうしてあなに座り続けた。ひろしは上を見上げた。あなの中から見る空は、いつもよりもっと青くもっと高く思えた。その空を1匹のチョウチョがヒラヒラと横切っていった。
ひろしは立ち上がり、弾みをつけてあなから上がった。そしてあなを覗き込んだ。あなは深くて暗かった。これは僕のあなだ。もう一度ひろしは思った。そしてゆっくりあなを埋め始めた。
今しか見えない景色、これは決して無駄ではない(サラリーマン)。なにも残ってないようだけど、私の人生は私が知っている(主婦)。とりあえず、俺のあなを掘ってみるか(学生)。
やりたいことがなくても、やることで見えてくる景色がある。経験は決してムダにはならないはずだ。