スマホゲームに課金してしまう2つの感情は「もったいない」と「???」。ついブームに乗って買ってしまうのは「脳が???しようとするから」。アイドルやホストにのめりこんでしまう原因の脳内物質「オキシトシン」とは?
ブラックマーケティング
あなたにはこんな経験ありませんか?連休中に旅行に行こうかとホテルの予約サイトを見ている時、そのホテルの閲覧人数が増えたのを見て、泊まる気もない宿をついつい予約してしまった。いわゆる衝動買い。
この時、人は無意識の内にある物質を巧みに操られている。それは、セロトニンとアドレナリン。セロトニンは精神を安定される働きを持つ。一方、アドレナリンは興奮や怒りの元になる物質。
セロトニンは日常生活でアドレナリンが増えすぎないよう抑える役目も担っている。通常の買い物をする時は、セロトニンの働きで精神の安定や冷静さを保てているのだが…。
先ほどのように、泊まる気はなくとも他人も見ているというメッセージがあることで、無意識に焦りや不安といったストレス感情が発生。するとそのストレスが原因で、脳内のセロトニンが減少し結果、セロトニンによって抑えられていたアドレナリンがどんどん増えていき、興奮状態になってしまう。
精神の安定が崩れ、興奮状態に陥った脳はやる気満々な状態になり、買うという決断のスイッチを入りやすくしてしまうのだ。他にもタイムセールや期間限定といった謳い文句など、無意識の内に不安や焦りを煽りセロトニンを減らす商法が世の中には数多くある。
こうした脳のメカニズムを利用したニューロマーケティングと呼ばれる販売手法や広告宣伝は、多くの企業で注目されている。だが一方で、これを悪用して詐欺や犯罪行為が行われることも…。
脳を刺激する巧みな仕掛け
スマートフォンのゲームアプリに課金
スマホゲームの昨年の売上は1兆2000億円。基本的に無料で遊べるからと気軽に始める人も多い。多くのスマホゲームには、抽選でアイテムを入手するガチャと呼ばれるシステムがある。通常ゲームを始めるユーザーは、何度かこのガチャを無料でできるようになっている。
この無料ガチャで周りの友人がレアなものを引いていると、自分も引かなくてはという気持ちに陥り、最初に少額の課金をしてしまう。それでもレアなものが引けないと、先に課金したお金が「もったいない」と思い、さらに課金を繰り返してしまうのだ。
さらにスマホゲームは、不特定多数のユーザー同士がゲームの中で繋がっており、ゲーム中は誰かに見られているということを常に意識している。そうした中で、魅力の乏しいキャラクターでは「みっともない」という心理が働いてしまう。逆に言えば、よく見られたいという意識だ。
大金を課金した末にレアなものを引き当てた時、脳にはドーパミンが分泌されている。ドーパミンとは、快楽や喜び、爽快感などをもたらす脳内物質。ギャンブルのような報酬を期待される行為によって多く分泌されるが、リスクや出て欲しいと念じた努力が大きいほど、その快楽感が増していく。
スマホゲームは、それらを巧みに利用しているのだ。
女性を悩ませるセロトニンの囁き
子供を持つママたちの井戸端会議で繰り広げられる会話。今度、うちの子(1歳)に英会話を習わす。水泳スクールに通わすのが流行っている。など手遅れになったら遅いという子供の教育に熱心な親が多い。
これは、女性のあることを利用しているからだと言われている。少子化が進む一方で幼児教育系ビジネスが市場を拡大させている。
人気のある習い事ベスト3は、
- 水泳
- 英会話
- ピアノ
そして子供の教育に熱心なのは、父親よりも母親であることが多い。これは脳におけるセロトニンの量が関係している。人は焦りや不安といったストレスを感じると、セロトニンが減少し精神の安定を保てなくなる。
そしてこのセロトニンを作る能力は、男性より女性の方が低いという研究がアメリカ・科学アカデミーの論文で発表された。つまり、男性より女性の方が不安を感じやすいのだ。
さらに女性には女性特有の事情がある。セロトニンの量と月経は連動していて、月経前はセロトニンが減る。街に溢れる幼児教育の広告には、母親や女性に向けたものが多い。
世の中には、女性のセロトニンの量を利用した商売もあるのだ。
ブームに乗るのは脳が???するから
タピオカに限らず、大多数の人が同じ物事を指示していると私たちは深く考えず、周囲と同じ行動を取ってしまう傾向がある。これにも脳が大きく関係している。
なぜこんなことが起きるのかというと、脳がサボろうとするからだ。
何かを考えたり選択する時、脳は膨大なエネルギーを使う。しかし、脳は基本的に怠け者で隙があればサボろうとする。できるだけ消費エネルギーを少なくする選択をするのだ。
自分で決めずに誰かが決めてくれるのであれば、じっくり吟味することを誰かに委ねてその選択を受け入れようとしてしまう。これは脳の欠陥であるかもしれない。
世の中のブームは、脳の欠陥を利用しているのだ。
オキシトシンの温もり
アイドルグループの同じCDを1人の消費者が何枚も買う。そのほとんどが握手券や投票権目当て。そこに大きく関わっているのが、オキシトシン。
オキシトシンは、人との繋がりや愛情を感じた時に分泌される。特に女性が出産や授乳の時に大量に分泌し、それによって親子の絆が深まると言われている。
今はSNSの普及で「いいね」など、より身近にスキンシップを感じることができる。するとオキシトシンが分泌される。好きな人をもっと好きになったり、繋がりたい共有したいという思いが強くなるのだ。
その極めつけが握手会だ。オキシトシンは、ボディタッチした時に大量に分泌される。握手会でオキシトシンが分泌されて、よりそのアイドルを応援したいという気持ちになるのだ。
さらにアイドルの女の子たちも勉強している。ただ手を握るだけでなく、両手で手を包み込むように握り大きく振る。これだけで、より多くのオキシトシンが分泌される。
さらにオキシトシン以外にも投票するという行為。これは自分の応援するアイドルが勝つか負けるかというギャンブル性を持っており、大量にドーパミンが分泌されるのだ。
こうした仕掛けによって、ファンの脳は快楽の回路を繰り返し刺激されている。みんな知らないうちにお金を使わされているのだ。
進化するSF商法の実態
脳のメカニズムを利用した悪徳商法は、年々巧妙化し後を絶たない。それは、あたなのすぐそばにも…
催眠商法(SF商法)
これは実話に基づいた恐ろしい物語である。
ある日、祖母の部屋に見慣れない健康食品が大量に置かれていた。これを飲んでいれば健康でいられると70万円もするものを買ったのだという。しかも、家族の通帳からお金を引き出してだ。
これはSF商法(催眠商法)と言われており、短期間の間に人を集め日用品などをタダ同然で配り、雰囲気を盛り上げた後、高額な商品を提示。会場の雰囲気で催眠状態となった来場者に高額な商品を購入させる手法だ。
数十年前からある手口なのだが、近年より巧妙化しているという。知らない間に祖母はその手口に嵌められていたのだ。
それは半年前、一枚の広告チラシからはじまった。そこには卵1パック10円など破格の商品が並べられていた。これは、典型的なSF商法の手口の1つ。一昔前は景品をプレゼントなど、無料の商品を餌に人を集めていたが、最近では格安を売りにし、より警戒心を和らげる手法が多いという。
さっそく祖母は会場へ向かった。
「今日はみなさんラッキーですよ!この卵、1パック10円!欲しい人!」
「はーい」「はーい」「はーい」
「今日だけ特別ですよ!」
「次はこちら!食パン10円!欲しい人!」
「はーい」「はーい」「はーい」
「半年間、毎日ここでやってますので来てください」
昔は短期間で行われていたが、最近では数ヶ月と長期間にわたって販売会が開催されているという。より深く信頼感を植え付けるのだ。
こうして通っているうちに販売員とも顔見知りになり、仲良くなる。販売員は客1人1人に声をかけ、手を握るなどスキンシップを図り優しく相談にも乗る。この時に分泌されるのがオキシトシン。そう、アイドルにハマる男たちと同じ状態になるのだ。
オキシトシンの影響は、女性の方が大きい。SF商法のターゲットのほとんどが、実は女性なのだ。こうして、オキシトシンにより信頼感を植えつけられた祖母は、毎日のように通うようになった。
そして半年間が過ぎた頃、販売員たちは動き出す。
「今日も卵が10円ですよ!食パンも10円!でも食パンは数が少ないので、ジャンケンです。隣の人とジャンケンしてください」
この時、祖母の脳内では焦りや不安からセロトニンが減少し、アドレナリンが増加、興奮状態に。さらにジャンケンというギャンブルを行ったことにより、ドーパミンも放出。この時を見計らい、販売員は一気に攻勢をかける!
「今日は本当に特別です。すごい商品をご用意しました。こちら飲むだけで病気知らずという健康食品…」
本来ならこのような謳い文句に騙されない人でも、アドレナリン、ドーパミンが大量に放出されオキシトシンによって販売員との絆を感じている状態に陥ると、驚くほど従順になってしまう。そして…
「通常100万円のところ、なんと今回は…70万円でご提供いたします!数に限りがありますので早い者勝ちです!」
こうして祖母は70万円という高額な商品を何の疑いもなく、大喜びで購入してしまった。人間は様々な仕掛けで無意識のうちに、脳が乗っ取られた状態になってしまうもの。くれぐれもご注意を!