その美貌からは想像できないスッポンのような執念深さにマスコミが食いつき、なんと小説化。後にあの美空ひばりが、彼女の歌を発売するまでになった伝説の女。この話、まさに2時間ドラマさながらの愛憎ドロドロのサスペンス。 結末には、誰も予想できなかった「ある驚き」が待ち受けていた。
花井お梅
時は1887年(明治20年)。花街としても有名な日本橋浜町の待合茶屋に、24歳にして絶世の美人女将がいた。 女の名前は「花井お梅」 。元は柳橋の芸者だったのだが、独立して女将に。 そしてこの美しい女性が、2時間ドラマで言う犯人なのだ。
待合茶屋で成功
「峰吉、ちょっと」
「へい」
「今晩の女の子たちの予約はどうなっているの?」
「はい女将、予約なんですが…」
芸者時代から付き人だった峰吉を番頭にすえ、待合茶屋は大成功。 しかし、成功の陰に嫉妬あり。 意外な事から、彼女の人生は大きく狂い始める。 それが、番頭・峰吉の裏切りだった。
実は、経営の事でお梅と揉めていたオーナーは峰吉と結託。 陰でお梅の追い出しを策略っていたのだが、それを知ったお梅が激怒。 殺人事件に発展してしまうのだ。
美人女将のご乱行
包丁を持ったお梅から夜の町を逃げ惑う峰吉。
「女将、どういう事だ!?」
「峰吉、私を裏切ったのか…」
「 しょうがなかったんだ。俺は言われただけで…」
「死ねぇ!」
なんとお梅は、自分を裏切った峰吉を刺殺。 この殺人事件、犯人が美人女将だった事にマスコミが食いつき報道が過熱。 お梅を巡る三角関係のもつれかと、ドロドロの愛憎劇まで報じられた。
しかし、峰吉殺しの全容は明かされる事はなく、裁判の結果、お梅は無期懲役に。 2時間ドラマならここで終わりのはずだが、この事件にはドラマを超える驚きの結末が待ち受けていたのだ。
事件から16年後…
お梅は特赦を受け出所。 そば屋で働き始めた。 お梅は、マスコミでも話題になった殺人事件の犯人。 世間が放っておくはずはなかった。
「あの女だよ、あの女!」
「よく見たら恐ろしい顔してるな」
「人を殺してよく出てこられるな、怖い怖い」
店には好奇心で、お梅を見に来る野次馬が連日殺到した。
「すいません…お店に迷惑なんで」
「けっ、人殺しのくせに」
普通に働く事もままならなず、人殺しのレッテルがついてまわった。 しかしこの後、お梅は東京中を騒然とさせる行動に出る。 殺人を犯して40歳で出所したお梅。 世間からの好奇の目で仕事が出来なくなった彼女がとった驚きの行動とは?
役者になって真相を公表
「おいおいおい、これ見てみろよ」
「なんだこれ!?」
お梅が取った行動、それは当時、東京中を騒然とさせた大事件「峰吉殺害事件」の真実を舞台化したのだ。 しかも、お梅は旅役者としてデビューを果たす。 さらに、彼女が演じたのがお梅本人の役だった。 彼女は自分自身で、自分が起こした殺人事件を演じたのだ。
舞台では、それまで詳しく明かされなかった、殺人の動機やその殺し方をリアルに再現。 お梅の「峰吉殺し」の舞台は大盛況。 一躍、人殺しから人気女優に上り詰めた。 その後、1916年に肺炎のため54歳でこの世を去ったお梅の墓の側には、彼女の半生を描き大ヒットとなった美空ひばりの「明治一代女」の歌碑が建てられてる。